小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020と2017の変更点
小児科医として勤務しているdoctorKKと申します。
今回は『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020の変更点』についての記事です。
<目次>
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020について
日本小児アレルギー学会より、小児気管支喘息治療・管理ガイドラインが2020年10月31日に発刊されました。
小児気管支喘息治療・管理ガイドラインは、私たち小児科医が気管支喘息の患者さんを診療する際に日頃から参考にしているものです。
数年に一度の頻度で改定されており、今回は2017年版から3年振りの改定になります。
今回の記事では、変更点についておおまかなポイントをまとめてみました。
ガイドライン 2020年版と2017年版の変更点
Clinical Question(CQ)の追加
2017年版と比較し、2020年版では新たに5項目のCQが追加され、全12項目となりました。
追加された項目としては以下のものになります。
CQ4:小児喘息患者の長期管理において、呼気中の一酸化窒素(NO)濃度(FeNO)値に基づく管理は有用か?
⇒臨床症状とFeNO値を合わせてコントロール状態を評価して長期管理することが提案される。
推奨度:2 エビデンスレベル:B
CQ7:小児喘息患者の長期管理において、ダニアレルゲン特異的免疫療法は有用か?
⇒ダニに感作された小児喘息患者にダニアレルゲン徳的免疫療法を標準治療とすることが推奨される。ただし、現時点では舌下免疫療法は喘息への保険適用がない。
推奨度:2 エビデンスレベル:B
CQ10:小児喘息患者の急性増悪(発作)時の入院治療に全身性ステロイド薬は有用か?
⇒入院治療に全身性ステロイド薬を投与することが提案される。
推奨度:2 エビデンスレベル:C
CQ11:小児喘息患者の急性増悪(発作)時に特定の経口ステロイド薬の使用法(種類、用量、期間など)が推奨されるか?
⇒急性増悪(発作)時に特定の経口ステロイド薬の使用法は提案されない。
推奨度:3 エビデンスレベル:D
CQ12:小児にウイルス感染による喘鳴の治療にロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)は有用か?
⇒小児のウイルス感染による喘鳴の治療として、LTRAを投与しないことが推奨される。
推奨度:3 エビデンスレベル:B
※推奨の強さ
1:行うことを強く推奨する
2:行うことを弱く推奨する(提案する)
3:行わないことを弱く推奨する(提案する)
4:行わないことを強く推奨する
※エビデンス総体の質
A(強):効果の推定値に強く確信がある
B(中):効果の推定値に中程度の確信がある
C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である
D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない
ICS+LABA(合剤)に新たな剤型が追加
2017年版でICS(吸入ステロイド)+LABA(長時間作用型β2刺激薬)の合剤として推奨されていたものは、SFC:サルメテロール/フルチカゾン配合剤(商品名:アドエア®)のみでした。
2020年版では新たに、FFC:ホルモテロール/フルチカゾン配合剤(商品名:フルティフォーム®)が追加になりました。
フルティフォームは成人の気管支喘息患者の長期管理薬として既に使用されている薬剤です。
2020年6月29日付けで小児適応が追加になりました。
6~15歳の長期管理プランにおいて、治療ステップ4の基本治療として中用量ICS/LABAがの使用が推奨されており、
中用量:FFC 50 エアゾール 1回2吸入、1日2回 (FP/FM 200/20)が推奨されています。
治療ステップ3では低用量ICS/LABAが基本治療として推奨されていますが、
低用量:FFC 50 エアゾール 1回1吸入、1日2回 (FP/FM 100/10)についてはエビデンスなし、となっており今後の治療成績の積み重ねが期待されます。
注意すべき点としては、FFC 125 エアゾールについては現在のところ小児適応がありません。
使用を検討される場合には注意してください。
生物学的製剤の位置づけを明瞭化
治療ステップ4の追加治療として生物学的製剤の項目が追加されています。
小児適用のある生物学的製剤は、抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ)、抗IL-4/IL-13受容体抗体(デュピルマブ)の3製剤があります。
2015年から、生物学的製剤の使用は「小児慢性特定疾病医療費助成*1」の対象となっています。
使用に際して評価すべき項目等について記載されているため、詳細についてはガイドラインを参考にしてください。
各生物学的製剤についても詳細な情報が記載されています。
トータルケアとしての喘息治療を推奨
CQ7の項目でも書きましたが、小児気管支喘息患者の長期管理において、ダニアレルゲン特異的免疫療法は有用か、といった問いに対して、ダニに感作された小児喘息患者にダニアレルゲン特異的免疫療法を標準治療とすることが提案されています。
気管支喘息患者の多くはアレルギー性鼻炎を併発しており、ダニに対する舌下免疫療法が検討されます。
舌下免疫療法については今後記事を書いていきます。
ここで注意としては、5歳以上の小児喘息に対してSCIT(皮下免疫療法)の保険適用がありますが、SLIT(舌下免疫療法)は小児喘息に保険適用がありません。
SLITを検討される場合には適用に注意してください。
乳幼児喘息について
小児の喘息の多くが乳幼児期に発症します。
ガイドライン2020では乳幼児期の特殊性とその対応について記載されています。
5歳以下の反復性喘鳴のうち、24時間以上続く明らかな呼気性喘鳴を3エピソード以上繰り返し、β2刺激薬吸入後に呼気性喘鳴や努力性呼吸・SpO2の改善が認められる場合には「乳幼児喘息」と診断します。
その他にもフェノタイプの記載や、乳幼児喘息と反復性喘鳴疾患の鑑別について細かく記載されています。
CQ12でも書きましたが、小児のウイルス感染による喘鳴の治療としてロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を投与しないことが提案されています。
この背景としては、小児のウイルス感染による喘鳴治療としてLTRAが過剰に投与される傾向があるためのようです。
詳細についてはガイドラインをご参照ください。
移行期医療における小児科医の役割を明瞭化
『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン』(JPGL)から、成人喘息のガイドラインである『喘息予防・管理ガイドライン』(JGL)に続けるため、一貫性のある管理・治療について記載されています。
小児科的医療から内科的医療へのスムーズな移行が必要であり、一貫性のある管理・治療が必要となります。
その中で、JPGLとJGLでは重症度に対応した治療ステップは異なるように見えますが、治療前の重症度を実際の症状の頻度、程度に置き換えると、対応する治療ステップは基本的には同等となります。
ガイドライン中には「小児期から継続して治療している喘息患者が思春期になれば、小児科医は患者の自立を促すことを意識していく」と記載されています。
小児期医療では保護者に連れてこられ診療を受けていますが、成人期医療には自律的に医療を受けることが必要となります。
この向き合いについての意識の準備を「移行」と呼び、とても重要になってきます。
その他にも移行期医療として考えなければいけないことなどについて記載されています。
詳細についてはガイドラインをご参照ください。
私自身、移行期医療についてはあまり勉強してこなかったのでとても勉強になりました。
電子書籍システムの導入
2020年版から購入者限定の特典として、新たに電子書籍版が導入されました。
ガイドラインの巻末にURLが記載されており、そこへアクセスすることで閲覧が可能になります。
特に登録等は必要ないため、気軽に見ることが出来ます。
私は紙の書籍を使用することが多いため、電子書籍にはあまり慣れていないのですが、今後少しずつ活用していこうと思っています。
※電子書籍版が導入されたため、2017年版よりも値段がやや高くなっています。購入時にはご注意ください。
まとめ
- CQが5項目追加
- フルティフォームがICS/LABAの薬剤として追加
- 生物学的製剤についての記載が追加
- ダニアレルギーのある喘息患者ではSLITを考慮
- 乳幼児喘息、移行期医療についての記載が追加
- 電子書籍版が導入
引用文献:
◎監修:足立雄一、滝沢琢己、二村昌樹、藤澤隆夫
◎作成:一般社団法人日本小児アレルギー学会
◎発行:株式会社協和企画
◎定価:本体 7,000 円+税
◎体裁:B5 判、本文 270 ページ、アジロ無線綴じ
『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020』発刊のお知らせ|お知らせ|一般社団法人日本小児アレルギー学会
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