doctorKK’s diary

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新型コロナウイルスワクチンのアナフィラキシーについて

小児科医として勤務しているdoctorKKと申します。

今回は、新型コロナウイルスワクチンについての記事です。

 

<目次>

新型コロナウイルスSARS-CoV-2)ワクチン接種にともなう重度の過敏症(アナフィラキシー等)の管理・診断・治療

 

2021年3月1日に、日本アレルギー学会から「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種にともなう重度の過敏症(アナフィラキシー等)の管理・診断・治療」の指針が発表されました。

 

一部の報道などでは、アナフィラキシーが起きたことについて過剰に報道されていることがありますが、ワクチンの安全性や副反応について理解し、適切にワクチン接種をすすめていく必要があります。

 

副反応の機序

通常、ワクチンによるアナフィラキシーの発症を引き起こす原因としては、免疫原である主成分またはアジュバントや保存剤などの添加物に対するIgEを介してマスト細胞の活性化されることで、症状が引き起こされると考えられています。

 

しかし、SARS-CoV-2ワクチンにはアジュバントや保存剤は添加されておらず、ファイザーとモデルナ製のmRNAワクチンでは、有効成分であるmRNAが封入されている脂質ナノ分子を形成する脂質二重膜の水溶性を保持するために使用されているポリエチレングリコール(PEG)がアナフィラキシーの原因と考えられています。

 

副反応の種類と頻度

指針の中では、副反応の頻度についても記載されており、

ファイザー社の mRNA ワクチンであるコミナティ筋注の 43,448 例(うち実薬 21,720 例)を対象とした第 3 相試験では、比較的頻度の高い副反応として、局所反応の他、全身反応として倦怠感,頭痛、発熱などが報告されたが、いずれも重篤なものはなかった 。しかし、承認後の接種ではアナフィラキシーの報告が続き、2020 年 12 月 21 日時点で 1,893,360 例への第 1 回接種で 21 例(11.1/100 万接種)のアナフィラキシーが報告された 。モデルナ社の mRNA ワクチンでは、2021 年 1 月 10 日時点で 4,041,396 接種中 10 例(2.5/100 万接種)のアナフィラキシーが報告された 。さらに、2021 年 1 月 27 日時点での米国疾病予防管理センター(CDC)のまとめでは、コミナティは 9,943,247 接種で 50 例(5/100 万接種)、モデルナ社ワクチンが 7,581,429 接種で 21 例(2.8/100 万接種)と報告された 。一般的にワクチンによるアナフィラキシー頻度は 1.3/100 万接種とされており、これまでより多いことが懸念される。

とされています。

 

一般的なワクチンよりは多いことが懸念されていますが、アナフィラキシーの発症数としてはかなり少ないため、感染予防の観点からも積極的に接種することをおすすめします。

 

ワクチン接種不適当者

1. 明らかな発熱を呈している者
2. 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
3. 本剤の成分に対し重度の過敏症の既往歴のある者
4. 上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者

とされています。

 

さらに、 下記に該当する場合には、専門医による適切な評価とアナフィラキシーなどの重度の過敏症発症時の十分な対応ができる体制のもとでない限り、同ワクチンの接種は避けるべきとされています。

 

ワクチンの成分、特にポリエチレングリコール(PEG)あるいは PEG と交差反応性があるポリソルベートを含む薬剤に対して重度の過敏症をきたした既往がある場合

 

PEG特異的IgE抗体の測定系は確立していないため、現時点では血液検査などで感作があるか調べることは難しいです。

 

ワクチン接種要注意者

1. 抗凝固療法を受けている者、血小板減少症又は凝固障害を有する者
2. 過去に免疫不全の診断がなされている者及び近親者に先天性免疫不全症の者がいる者
3. 心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害等の基礎疾患を有する者
4. 予防接種で接種後 2 日以内に発熱のみられた者及び全身性発疹等のアレルギーを疑う
症状を呈したことがある者
5. 過去に痙攣の既往のある者
6. 本剤の成分に対して、アレルギーを呈するおそれのある者

 

それ以外にも、不特定多数の医薬品(注射)でアナフィラキシーをきたした者、ならびに2)原因不明のアナフィラキシー(特発性アナフィラキシー)患者でも、新型コロナウイルスワクチン接種において特に注意が必要であるとされています。

 

予防的なヒスタミン H1 受容体拮抗薬投与は望ましくない

指針の中で、

予防的なヒスタミン H1 受容体拮抗薬投与は、かえってアナフィラキシーの初期症状を不明瞭にしてしまう危険性があるため好ましくない。但し、他の疾患に対して投与中のヒスタミン H1 受容体拮抗薬を中止する必要はない

とされています。

 

下記の場合でも、新型コロナウイルスワクチンを接種することによるアナフィラキシーのリスクは変わらなとされています。

(a) 喘息、アレルギー性鼻炎アトピー性鼻炎
(b) ワクチンや医薬品(注射)以外の特定の物質[食品、ペット、ハチ毒、環境(ハウスダスト、ダニ、カビ、花粉など)、ラテックスなど]に対するアレルギー

 

ただし、コントロール不良の喘息患者がアナフィラキシーを来した場合には重症化するリスクがあるため、これらに対応できる医療機関での接種が望ましい、と記載されています。

 

まとめ

・ワクチン接種に際しては常にその益と害のバランスを考える必要がある。

・食物アレルギーなどのアレルギー疾患があっても、ワクチン接種によるアナフィラキシーのリスクは変わらないため、通常どおりワクチン接種は可能。

アナフィラキシー予防としてのヒスタミン H1 受容体拮抗薬を内服は望ましくないが、花粉症などでヒスタミン H1 受容体拮抗薬を内服している場合でもワクチン接種は可能。

SARS-CoV-2ワクチンによるアナフィラキシーは他の原因によるものと変わらず、適切な対処により回復するため、ワクチン接種によるアナフィラキシーを過剰に心配する必要はない。

 

 

 引用文献:「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種にともなう重度の過敏症(アナフィラキシー等)の管理・診断・治療

 

 

 

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